映画「パンズ・ラビリンス」
メキシコのギレルモ・デル・トロ監督による、スペイン戦争終結後間もない1944年の山岳ゲリラ地帯を舞台とした一種のファンタジーである映画「パンズ・ラビリンス」(http://www.panslabyrinth.jp/main.html)
ビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」(1973年)や「エル・スール」(1983年)、さらにはアラン・レネの「戦争は終わった」(1965年)ともつながる内容のもの。「パンズ・ラビリンス」は「ミツバチのささやき」以上にファンタジー色を濃くしているが、同時に「大人のため」の度合いも強くなっている。少女から大人への過程で避けがたい葛藤を、フランコ独裁体制と反体制運動を背景に物語っている作品。それをファンタジーで描くことによってこの作品は現代における普遍性を獲得している。人間の強さと弱さ、優しさと残酷さ、尊厳と傲慢などを、圧制と抵抗という舞台の中でのシリアスなドラマとして描いたとすれば、ステレオタイプな政治映画になってしまう危険が大きかっただろう。また、今でも北朝鮮やミャンマーやグアンタナモでも繰り返されていることを思えば、なぜ1944年のスペインなのかという疑問も浮かんできてしまっただろう。一方、少女のファンタジーを現在を舞台に作り上げると単なる絵空事になってしまう。どうしても半世紀以上前の時代が必要だったと思われる。スペイン戦争が、妙な言い方だがファンタジーのリアリティーを保証しているのだ。時代とのつながりに確実な必然性を持つがゆえに普遍的意味を語りえたファンタジーというのは、あまりないのではないか。
私たちが見に行った立川シネマシティでは小さなスクリーンで上映していたが、是非ともロングランを続けてほしい名作である。
(新聞の広告に「目玉も飛び出る大ヒット!」と大書してあった。そんな場面があるにはあるが、このうたい文句は作品の内容とあまりにもかけ離れている。逆宣伝になってしまっている。)
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