堤 未果「ルポ 貧困大国アメリカ」・「ルポ 貧困大国アメリカⅡ」岩波新書
2009年1月のオバマ大統領就任を挟んで、2008年1月に刊行された「ルポ 貧困大国アメリカ」(以下、「I」と記す)と、2010年1月に出された「ルポ 貧困大国アメリカⅡ」(以下、「II」と記す)とで、堤未果はブッシュ時代に拡大し、オバマに変わっても変わることのなかった格差を報告している。
取り上げられたのは、「I」では肥満・ハリケーン被害・医療・教育・戦争、「II」では学資・年金・医療保険・刑務所。
著者は、格差の拡大と更にその拡大再生産との原因は民営化によって企業の利潤追求に全てが委ねられたことにあるとする。
また「II」では、オバマが大統領選で彼を支持した学生や中下層の人々の期待を裏切っていることを伝えている。「II」の中でも記されているように、オバマへの大口献金者が大企業であることを見れば、「Change」の内実がどの程度のものになるかは、いくらかは予想できたことだろう。
この二冊で指摘されている事実がどの程度アメリカ合衆国で一般的に見られる現象なのかを、私自身で検証してはいない。しかし中曽根によって本格的に始められ小泉によって一層推し進められた「民営化」や「規制緩和」といった政策が日本社会にどんな変化をもたらしたかを見れば、著者の指摘の妥当性は明らかだろう。効率だとか経済性といった口実の下に推進された民営化は成果を上げたかの錯覚を与えているが、ほとんどは賃金引き下げや長時間労働・過重労働を強いることで実現しているに過ぎない。もちろん小泉たちにしてみれば、それで大成功なのだろうが。
しかしそうして肥大化した企業の利潤と削減された家計収入や消費意欲が、「失われた10年、20年、30年・・・」となってやがて全ての企業の首も締めて行くことに彼らは気付かないのか。近視眼的な利潤追求に走ったことで資本主義の足元までも掘り崩しているのだが。
por Andres
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